ゆらゆらしている

目を閉じるとそこに雪山があった。午後の2時ではあるが雪が降り注ぎ視界が悪い。数メートル先も分からない。視界が悪い一方で、降り注いでいる雪が徐々に積もったお陰か、雪質は段々柔らかくなってきている。エッジをかけながら体重を上下左右に調整する。身体がゆらゆらする。爪先、踵に交互に力を入れて向きを変えながら前に進む。しかし時に身体がバランスを崩してしまい転倒してしまう。思いっきり胸を打って二回転。先程食べた昼食が胃の中でシェイクされる。吹き飛んだゴーグルを取って、視線を下に向ける。吹雪に隠れながらどんどん小さくなっていくカップルたち。どうかしている。こんなに痛くなって、さらにお金を払ってまで位置エネルギーの無駄遣いをしている。とは思いながらも滑るしかないことも同時に悟る。起き上がって再び降っていく。少しずつできないことができるようになる。つい楽しくなって滑り終えた矢先、先程のことを忘れたかのように喜喜としてリフトに乗り込む。そしてまた転んで呆然とする。何度も何度も回想される。部屋で携帯を見ているはずなのに意識は携帯に向かっていない。頭の中が未だに雪山を滑っているようにゆらゆらしている。床に仰向けになっているのに、滑ってるかのように頭だけピクピクしている。布団までの距離は2メートル。ボードに乗って滑ってしまえばほんの一瞬の距離なのに家の中では無限遠に感じられる。いざ床に寝そべったが最後、首、腰至るところが痛い。力が入らない。湿布を肩に貼って寝ようと思ったのに手が届かない。どうしようも無く携帯に文字を打ち込む。バッテリーが10パーセントを切った。そして気づいたら自分のバッテリーも限界を迎えて床に倒れ込んでしまった。